絶滅の危機に瀕したメキシコの音楽文化は、意外にも耳慣れたあの音だった

photo by foxtongue

UNESCO(国連教育科学文化機関)は29日、絶滅に瀕した伝統文化を発表し、メキシコのマリアッチ音楽や、中国の影絵人形、キプロスの詩闘(poetic duelling)などを、保護が必要な伝統文化に指定した。
(via guardian)


聞き慣れないものや、興味をそそるものが多く、調べてみることに。



するとメキシコのマリアッチ音楽は意外にも、日本からみた(もしくはメディアを通した)メキシコらしさのあふれる音楽だった。



それもそのはず、実はマリアッチ(Mariachi)とは、音楽ジャンルというよりは、「楽団の様式」なのだ。
マリアッチは音楽の種類を指すものではない。マリアッチの楽団は様々な種類の音楽を演奏する。 (中略) 音楽に種類名をつけるとすれば、「メキシコ伝統曲」か「メキシコ地方曲」となるであろう。(wikipedia)

1940年代から50年代にかけ、メキシコ映画の影響でマリアッチは世界的に有名になった。アメリカやヨーロッパの映画に使用されるようになるわけだが、現在もCMなどに繰り返し用いられるイメージの原型はきっとそこにあるのであろう。







すなわち、ユネスコが絶滅を危惧している対象は、必ずしも音楽ジャンルとしてのマリアッチだけではなく、それを育んできた「楽団」という形態なのだ。

そこには、楽団内の師弟関係の中で、尊敬の念が伝えられてきたという教育体系としてのマリアッチという意味も含まれるのであろう。



一方で、絶滅危惧のリストに挙げられているキプロスのTsiatista(おそらくチアティスタという発音)と呼ばれる詩歌もこれまたスゴイ。

Tsiatistaはパフォーマーのウィットと、語彙の豊かさを競い合う伝統文化だ。(詩闘とでも訳せよう)

動画の序盤のお父さんはヘタウマだが(笑)、中盤の息子さんを特に聴いてみてほしい。


そしてまた、歌い手だけでなく、聴衆の歓声/声援にも注意を向けてみてほしい、ラップバトルみたいな興奮に包まれているではないか!


そこに、ラップの魅力にも通じる言葉の流れの気持ち良さと、頭脳戦を垣間みる事ができる。ラップの遠い祖先とでも言えるかもしれない。



逆に言えば、ラップという文化が現代の音楽文化として、偶然ひねり出されたのではなく、人間の「言葉」自体のもつ音楽性や、言葉を戦わせる楽しさは、人類史に一貫して存在しつつけているのであろう。


伝統の消滅を嘆き、保護の必要性を叫ぶのは簡単だ。
究極的には、現存する文化の方向を決め、どのように受け継がせるかは、文化を実践する「担い手」にかかっている。

だとすれば、この小さなウェブサイトに必要なのは、絶滅の危機にさらされている(とされる)文化の現在形を、簡単にでも動画などを交えて伝えることだと考えた。

【リンク】
Unesco identifies endangered cultural traditions - guardian.co.uk


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